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 新名との約束のためってわけでもねけぇど結局、短縮期間中は部活を休みにした。そしてすぐに約束の月曜日がやってくる。
 また緊張してし間がもたなかったりしたらカッコ悪ぃなどうしよう、なんて柄にもない心配しながら新名との待ち合わせに向かったけど、その全然そんなの必要なかった。
 
 正門で集合して、歩いてくか、ちょうどいい時間のバスがあれば乗って行こうとか話しながら歩いて、結局ちょうど乗れたバスの中では新名が持ってきてくれてた雑誌の切り抜き見ながら、どんなメニューがあるかだとか調べてきたこと教えてくれたりした。
 こないだの気まずさは一体なんだったんだよってぐらい、いつもどおりスムーズに会話が弾んで盛り上がった。
 
 
 新しくできたその食べ放題の店は、飯は美味いし種類も量も多いしデザートも何でもあるし、それでランチタイム価格1500円とか神がかってるなと感動してたら、新名が「割引券あるから今日はおごるよ」とか言い出した。年下の奴からおごってもらう理由が何もないから断ったんだけど、どうしてもって譲らなくて埒が開かないのでその場は払ってもらうことにした。
 
「イタリアン食べ尽くしたあと、すぐに中華も制覇しようとしたら店員引いてたな」
「青ざめてたよ。嵐さん食べ放題キラーだね、元取るどころの騒ぎじゃなくて笑うしかなかったよオレ」
「でもあの店、酢豚にシイタケ入ってた」
「それは普通っしょ、っつか無言でオレの皿にそのシイタケ移してきた人誰よ」
 
 腹が一杯になって満たされた気持ちのときは、こんな他愛のない話でも何でもおかしくて、並んでゲラゲラ笑いながら臨海公園を突っ切る。俺はここからバスに乗るけど新名の家は徒歩の距離らしいから駅で解散するのが自然だったんだけど、なんとなく駅には向かわずに海に向かって歩いてた。
 たぶん俺がまだ離れがたかったんだと思う。新名はそういう空気はよく読んでくれるから、きっと合わせてくれてんだ。
 
 
「また……こんな風に二人で会えたらいいな」
 人通りの少ない海岸沿いの旧国道から浜辺へ降りて砂浜をぼんやりと歩いてると、ふと新名がそんなことつぶやいた。
「そういや、コンビニと学校以外で会うのって初めてだな」
「……いま気づいたんだ? 」
 新名がちょっとがっかりしたような表情をした。だってしょうがねぇだろ。今日だって学校帰りに校門で待ち合わせてそのまま来たんだから、さっきまで学校の延長みてぇな感覚だったし。
 
 でもなんか、こうやって待ち合わせて二人で飯食いに行くって、しかもそのあとも目的もなく一緒に歩いてるなんて、まるで――
 
「デートみたいだったな、今日」
「…………」
「どうした? 」
 
「……そういうことサラッと言えちゃう人だよねー、嵐さんって」
 サラッとは言ってねぇんだけどな。自分でも言ってからびっくりしてる。ほんとだ、これデートってやつだ、つか男同士で何言ってんだ俺、って。
 
「あのさ……嵐さん、今日何の日か知ってる? 」
「何の日って……ホワイトデーだろ? そのぐらいしかわかんねーけど」
「知ってるんじゃん……」
「そりゃ……バレンタインのお返し配り歩いたからな。あっ」
 そこまで言って気づいた。これバレンタインのお返しか。
「飯おごってくれたのって、お返しだったんか」
「そ、そうだけど……」
 そうか、別れ際に自分の分の勘定は無理にでも新名に渡して帰るつもりだったけど、それじゃここは甘えといた方がいいんかな。 
 俺が黙ってたら、新名が「あーもうっ」とか言いながら頭を掻く。
 
「嵐さんはどうせ『いつも世話になってるから』って、お歳暮やお中元みたいな感覚でバレンタインくれたんだろうけど……オレ的には重大なことで……」
「どうせ、って何だよ」
「だから、嵐さんは軽い気持ちだったかもしんねーけど、オレは真剣に――」
「真剣に? 」
「真、剣に……」
 まるで俺が真剣じゃないみたいな新名の言い草にちょっとムッとしてオウム返しに聞き返したら、新名は真っ赤になって黙ってしまった。
「真剣に何だよ。言ってみろ」
「……っ」
 ゆっくり歩きながら話してたんだけど、新名が口ごもったまま立ち止まったのでそっちを振り返る。
 
 あ。俺この空気知ってる。
 
 こないだと同じだ。
 
 それまで無駄に話し続けてた新名の歯切れが急に悪くなって、俺も何て言うのが正解なのかがわからんくて怒ってるみたいになって。
 あのときは自分が緊張してるせいだと思ってたけど、これきっと新名も緊張してんだって気づいた。自分が優位に立てたわけじゃねぇけど、別に不利でもねぇんだ、新名も同じなんだ。そう思ったら、ちょっとだけ気が楽になる感じ。落ち着いて、新名の言葉を待てばいい。こいつもたぶん焦ってる。
 まだ肌寒い季節だからか、砂浜には俺たちしかいない。俺たちが黙ってれば辺りは波と風の音、それと時々上の道路を通り過ぎる自動車の音しかしないんだ。その静寂を、ようやく新名が破った。
 
「だから…つまり、オレは……嵐さんが好きなんだけど…ッ!! 」
 
「ああ……ちょうど俺もその話しようと思ってた」
「……っ、だから……オレは真剣なんだってば! 」
 だから何だよ。俺、そんなに真剣に見えねぇのか? これでも緊張してんのに。
 
「嵐さんオレ……オレね、バレンタインの時から……ううん、たぶんそのずっと前からきっと……嵐さんのことが好きで……」
「ああ。俺も好きだぞ」
「そうじゃねぇんだよ……嵐さんのとは違う」
「違うのか? 」
 
 たぶん、違わないって思った。
 こないだ、この『デート』に誘ってくれたとき新名の様子がおかしかったのとか、まさに今テンパってるのは、こないだの俺と同じでいいカッコしようとする余り、緊張して上手くしゃべれなくなってたんじゃねぇのか。
 
 そして、同じだったらいいのにって思った。
 
 恋をしてるから、だったらいいのに。新名も、俺に。それなのに、なんで違わないと困るみてぇな言い方すんだよ。
 
「どう違うんだよ。言ってみろ」
「どうって……」
 顔を真っ赤にしてた新名が、とうとう耳や首まで真っ赤になった。フラフラと石垣の方へよろけそうになったのを見て、とっさに手を掴む。
「大丈夫か? 」
「……あぁ……」
 新名がぼんやりと、返事のような溜息のような声を出した。そして、引っ張って支えた俺の手をじっと見る。
「嵐さん、オレさ……」
「うん」
 軽く握ってた俺の手を強く握り直して自分の方へ引き寄せると、拳の山と指の第一関節の間あたりにチュッて音を立てて新名が口をつけた。
 そして、すぐに口を離して俺の手を見たままハァー…って、観念したみたいに芝居がかった溜息をついた。
 
「……こんなんじゃ足りねぇんだ。オレ、嵐さんにもっとやらしいことしたいって思ってます。そういう感じの『好き』なんだよ、オレのは」 
 
 ハァ……言っちゃった……もうヤダ……って、新名は泣きそうに目を閉じてしまってる。これは――俺は何て言ってやればいいんだろう。って、馬鹿。カッコつけてたらまた何も言えねぇぞ、俺。
 同じ気持ちだって、確信したんだからカッコ悪ぃなんて気にしてる場合じゃねぇ。上手いことは言えねーけど、正直な気持ちを言うことぐらいは俺だってできる。
 
「やっぱり、違わないじゃねーか」
「へ……」
 新名が薄目を開ける。まだ俺の手握ったままだから、こっちも引っ張り返して、お返しに人差し指と中指の爪の付け根のとこにキスしてやった。
「俺もこれじゃ足んねぇよ。俺もずっとそういう意味でおまえのこと好きだったんだ。自覚したのは最近だけどな」
「あ、あ……嵐さん……」
 つか、俺のバレンタインが『真剣じゃない』って思ってたのに自分は真剣にお返ししてくるとか、こいつ可愛いとこあるよな。まあ俺も、新名も色んな奴からもらってるだろうから、男からのバレンタインなんていちいち愛の告白として対応しないんじゃねぇかなって、ちょっと心配はしてたけど。
 でももう、お互い真剣だって解ったんじゃねぇのか、いい加減。
 
「それで、おまえはどうしたいんだ? 」
 俺のしたいことはもう決まってる。でもそれは言わずに、新名に言わせたい。やっぱり同じ気持ちだったって、目に見える形で確認したい。
 ちょっと意地悪く、新名の顔を覗き込んだ。
「嵐さん……」
 新名が泣きそうな顔で俺を見つめる。握ってた手を離して肩を押され、背中を石垣に押し付けるように逃げ場を奪われた。
 新名の肩越し、派手な色の毛先が跳ねた頭の向こうに夕陽の海が見える。そして新名は涙目。
 じっと見つめ返したら、新名の目がうるって揺れて、マジで泣き出しそうだ。
 
「ちょっ……そんな見ないで。頼むから……ちょっとだけ、目ぇつぶって」
「こうか? 」
 さすがに可哀想になって、言われたとおり目をつぶってやった。
 
「嵐さん」
 新名が俺の名前を呼ぶ声がすっげぇ甘い。ほら、こいつ俺のこと大好きなんじゃねーか。なんかホワッてあったかい気分。
 じっと目をつぶって待ってたら、やっと唇に新名のそれが触れた。
 
 やっぱ、したいことも同じだった。
 
 すぐ離れていこうとした唇が名残惜しくて、自分から追いかけてってもう一回触れる。そしたら何か吹っ切れたみてぇに、新名がギュッて抱きしめてきた。
 ああ、俺ずっと新名とこうしたかったんだ。
 
 何回も唇が離れて、そのたびに口だけじゃなく頬や額、髪の生え際とか色んなとこに新しいキスが降ってくる。「嵐さん、嵐さん」ってキスの合間に新名が何回も俺の名前を呼ぶ。頬にかかる息が熱い。こいつ俺のことすっげぇ好きなんだな。
 
 肩のあたりに添えてるだけだった腕を伸ばして、新名の背中にギュッと腕を回した。
 
 
 俺も、新名とおんなじ気持ちだ。







終わり

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