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「嵐さんさ、こないだ痴漢に遭ったばっかなのに無防備すぎ」
「新名は心配しすぎ」
 不二山は薄着だ。冬服の時でさえ前のボタンは留めないで、中の薄いTシャツが見えていたりする。今日も薄手のTシャツ一枚で、季節的には普通なのだが不二山を『そういう目』で見ている新名には心配の種でしかない。
 人との体の接触が多い競技を長くやっているせいで慣れているのと体に自信があるのも手伝って、本人が他人に触られることを特に嫌がってもいないのが、ますます新名を不安にさせた。それならばもういっそ、前ボタンなどついていない分厚めのかぶりの服だけ着ていて欲しいと願ってしまうほどだ。

「男が男に触られたって、別に問題ねーだろ。おまえ何年柔道やってんだ」
「あるよ! 大アリ!! 部活とかで触るのと、やらしい気持ちで触るのとじゃ全然違う!」
「……そんな物好きおまえだけだ」
 たしかに確率的に言えばそうかもしれない。『自分のことを性的な意味で触ってくる同性』など、近くに一人いれば充分だ。いや、一人いるだけでも結構な確率だ。けれど、今からまた混雑する電車に乗って帰らなければいけないというのに、不二山がこの態度では新名の不安と不満は増すばかりだった。
 
 この路線はこの駅を出た後しばらく乗り込んだ側とは反対側のドアばかりが開く駅が続く。乗り込んだドアからそのまま降りればよい不二山と新名は、他の乗客が奥へ奥へと乗り込んでいくのを見送ってから最後に乗り込んだ。
 なるべく不二山を人と接しないドアの脇の手すりの所へ誘導した意図が解ったのか、不二山はあきれたように「おまえ…マジで気にしすぎだ」とこぼす。
(オレは気にしすぎかも知んないけど、嵐さんが気にしなさすぎなんだって!)
 不二山が嫌がっていない以上、それを嫌だと思う自分がしっかり対策しなければと考えている新名は、不二山と向かい合わせるように立った。
 
 次の駅でも降りる人数より乗ってくる人数の方が多く、奥にいる新名の背中はグイグイ押される。手すりを握っていた腕も縮こまり、不二山との距離も息がかかるほど顔が近づいて、少し気まずい。
 何より、さっき生地が薄いことを心配していた不二山のTシャツの胸に、新名の手の甲が強制的に触れてしまっているのが気恥ずかしかった。
(……嵐さんのことタイプな奴がこういう状況になったらラッキーって思うに決まってんのに)
 少し苛立って手に力を入れたら、拳の山が不二山の胸のちょうど乳首のあたりに擦れた。
(……あ、だったらオレが今ラッキーなんじゃん……? )
 後ろからは押され放題で腕も肩も動かせそうにないから、わずかに動く手首を返すようにそこを撫でてみる。
「……っ」
 不二山が咎めるような目で見てくるが、気にしないことにした。
 Tシャツ越しでもその所在がわかるぐらいに硬く尖ってきた胸の先端を、拳を立てるようにして今度は人差し指と中指の第二関節の辺りで挟んでやった。
「新名……やめ」
「えっ、だって男が男に触られたって、別に問題ないんでしょ? 」
 周りに聞こえないぐらいの声で言ったら、不二山は怒ったようにうつむいてしまった。

(痴漢されんのはヤだろ、やっぱり……)
 これで懲りてくれたらいいんだけどなぁー…と思いつつ、不自由な状態で指に力を入れるたびに不二山が小さく肩を震わせる様子に密かに興奮した。
「……ん、…っ」
(コレ、絶対電車降りたら怒られる……! )
 頭ではそう思いながらも責める手はエスカレートして、2本の指で引っぱるように挟んだそこを親指の先でグリグリと苛めてしまう。不二山が唇を引き結んで体をプルプル震わせている様子を間近で見て、本当はもっと色々すごいことがしたくなったが、動けないのでひたすらその一点集中攻撃を続けた。
 
 
 
「おまえ……覚悟できてんだろうな」
「……ゴメンナサイ」
 目的駅に着いて人混みに押し出されるように降車した後、人の流れに乗って歩いていると、背後から不二山のドスの利いた声が聞こえた。新名はちょうど改札を出るところだったので振り返ることはできなかったが、どんな『悪い顔』になっているのかと想像するだけで背筋が凍る。
 不二山の顔を見られないまま構内を出て、バスロータリーの外側を歩く頃には人混みもだいぶん分散していた。
「だ、だって嵐さんが『男が男に触られたって問題ない』って言ったんじゃん」

 ようやく隣を見る覚悟が出来て、いいわけじみた言葉を口にしてみる。
 不二山の歩き方が少しだけぎくしゃくして見えるのは自分のせいだ。それ以前に新名自身ズボンのポケットに手を入れて、兆してしまっている下半身を誤魔化しているのだが。
「……問題ねーんだよ。普通は」
 そう言って不二山が立ち止まったので、つられて新名も立ち止まる。
「男にどこ触られようが、俺は全然平気なんだ。でも……おまえに触られっと……変になる……こんなのおまえだけだ」
「嵐さ……」
 ど真ん中に直球が来た。
(オレだけ……特別……? )

 プイと新名から目線を外して、不二山が赤い顔をして続けた。
「……だから、もう外であんなことすんな……我慢できなくなっちまうだろ」
「…………!! 」
 それだけ言うとまたスタスタと歩き出した不二山を、新名は追いかけることができない。
 
「何やってんだ新名。立て、早く来い」
「……立てない……つーか、ある意味立ってるけど……」
 ぴったり脚を閉じたまま道端に屈みこんで顔を覆ってしまっている新名のところへ不二山が戻って来て、腕を掴んで無理やり立たせた。
「早くしろ……おまえん家、寄るぞ」
「え……」
「……この続き、しなくてもいいのかよ……」
 不二山の手が、掴んでいた新名の手をさっき満員電車の中でさんざん弄った箇所へ触れさせるように導く。
「……っく……する! 」
 ドキッと跳ね上がった心臓の音と連動するように、Tシャツの上から反射的にキュッと摘んでしまって、今度は不二山が「ンッ」と息を詰めた。
 
「行こ! 早く!! 」
「新名……現金すぎ……」
 ぎこちないフォームで走り出した新名を、不二山もまた少し走りにくそうに追いかけた。




終わり
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