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「なに……バカなこと……」
「バカなことって思う? つまり嵐さんにはできないってこと? ふーん……」
 わざと挑発するようなことを言ってみる。
「……できないとは言ってねぇだろ」
 ほら、ほんと負けず嫌いだよね。まんまと挑発に乗っちゃって……いや、これは乗ってくれたのか? この人カッとなってこんな見え見えの罠に引っかかるタイプじゃないし、オレが誕生日だからリップサービス?(チューだけに)
 
「いいよ、無理しなくて。好きな人としかしないんでしょ」
 これ以上いじめるのも可哀想になってきて、オレの方から折れた。
 もともとしてもらえるなんて思ってない。告白ってほど大袈裟なつもりもなくて、ただこの機会にちょっとだけ、鈍感な嵐さんにオレの気持ち知らしめたかっただけっていうか。
 嵐さんが誰ともチューしたことなくて、特に好きなコがいるわけでもないって知れただけでも今日は充分だ。いずれその枠にはオレが食い込んでやるって……思ってただけなのに。
 
「だから、俺はできないなんて言ってねぇ」
 引っ込みがつかなくなっちゃってるのか、まだ意地張ってる人がいた。
 それ以上はやめて。オレも変に意地になっちゃうから。
 でも、やめとけって思う心とは裏腹に、脳は暴走して勝手なことを口走る。
「でもそれってさ……嵐さんの言い分まとめると、つまりはオレのこと好きだって言ってるようなもんなんだけど? 」
「……別に、好きじゃないとも言ってねぇだろ」
「あのさ……もうそういう負けず嫌いの対抗意識だけでそういうこと言うのやめてくださいよ。いくらオレがヘタレだって、いつまでも口だけじゃ済まないよ? 」
 ただでさえここは密室で、二人きりなんだから。
 しかもさっきまでマッサージしてもらってた関係で、物理的な距離もものすごく近い。そうだ、チューしてるって誤解されそうなぐらい近づいてたんだった。
 うわ……意識したら急にドキドキしてきた。
 
「他にもいっぱい部員いんのに、個別で誕生祝いしてやるのなんて……新名だけなんだからな……」
「ソレ……オレ、すっげ都合のいい意味に取っちゃうけど……? 」
「…………」
 さっきまでオレの目を見て話していた嵐さんが、いたたまれないというようにフッと目線を下へ反らした。ヤバイって、隙見せんなって。そういう表情グッとくるんだよ。
 
「ホントにしちゃってもいいの? オレは……全然オッケーだよ、嵐さんが好きだから」
「……っ」
 精一杯の虚勢を張って冗談ぽく頬に触れたら、ビクッとして固まってしまった。嵐さんがビビッてるなんて珍しい。ていうか初めて見たかも。
「……なんで…、おまえそんな偉そうなんだ」
「えー、別に偉そうじゃないでしょ」
 むしろ心臓バクバク言い過ぎて口から出そうなんですが、お解りいただけてませんか。いや、解られててもカッコ悪いんだけどね。
 
 今さら頬に触れた手を離せなくて、でもそれ以上どうしていいかわかんなくて、親指で嵐さんの下唇をなぞったら「ンッ…」って息を詰めたのが伝わってきた。
 ああヤバイ。何か色んなものが漏れそう……じゃなくって、溢れそう。
 息を吸った後はどうするんだっけ、そうだ吐くんだ。そしたらまた吸って、吐いて……そんなルーチンを頭の中で復唱しないと呼吸もできないほど緊張してる。生命維持の危機だ。
 胸が苦しいなんてもんじゃない。胸が苦しすぎて咽喉のあたりまで苦しい。オレ、鼻息荒くなってねぇかな……
 
「いいの……? ホントに……しちゃうよ……? 」
 興奮で血管が拡大してんのか咽喉の奥まで圧迫されてて、声が掠れた。カッコ悪ぃ。
 嵐さんの肩に手を置くと、大袈裟なぐらいビクリと体を揺らした。嵐さんも緊張してる……それとももしかして、期待……してる?
 まだ了承を得てないから、顎を引いたまま顔を近づけて唇より先におでことおでこをくっつけて待った。
 
 
「……いい。俺も……好きだ、新名が」
 
 もしこれが『ドッキリでした~! 』とか言われたらオレ、部活やめて、学校もやめて一生自分の殻に閉じこもるね。
 
 そのぐらい信じられない、嬉しすぎる現実が降ってきた。耳の奥までドキドキしすぎてとても遠い声だったけど、嵐さんがそう言ったのが確かに聞こえた。
 オレの都合のいい幻聴じゃない証拠に、目の前の嵐さんはギュッと目を閉じて待ってる。これって、そういうことだよな? 大事な後輩としてとか、期待かけてる弟子とかそういうんじゃなくて……オレと同じ、チューとか他にも……色々したいって意味の『好き』だよな?
 
 
「え…と、こういう時……なんて言うんだっけ……? あっ、いただきます? 違うか……」
「新名うるせぇ。黙ってやれ! 」
 怒られた。
 それなのにヤバイ。まだ唇触れてもないのにフル勃起。
 
「あ、らしさん……好き」
 顔を傾けたら、くっつけたままのおでこの間で嵐さんの前髪がサラッと擦れる。
 息を止めて、ガチガチの、唇がようやく一瞬触れるだけのキスを、した。
 涙が出そう。
 嵐さんがギクシャクとオレの首に腕を回してくれた。
 
 そして、やっぱりちょっと掠れた声で。
「新名……誕生日、おめでとうな」
 
 そんな言葉とともに、嵐さんの唇がオレの眉間のあたりにちょんと触れる。
 涙が出た。
 
 
 
 こうして、まだ何かやらかしても許されるような、そんな勢いがあった高校一年の誕生日は、オレにとって生涯忘れられない記念日になった。



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ニーナお誕生日おめでとう!
本当は出会いから初チュー、初エッチまで書きたかったんだけど時間足りなかった…オフに下ろすときに出会いと初エッチ付け足すから許してくれw
今日のところは嵐さんにベッタベタに祝ってもらってね!
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