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 期末テストが終わって翌週から短縮授業に入る。試験の成果はともかく。まあ赤点さえ取らなきゃいいんだよ、こういうのは。
 まだまだ畳冷てぇし、朝練は自由参加なのに部員みんなテスト中も休まず来てたし、春休みはガッツリしごくつもりだし、この2~3日は『テストお疲れ休み』にしてもいいかな、どうするかな。そんなことを考えながら、バイトに行こうと靴を履き替えてた時だった。
「ちっす、嵐さん」
「新名」
 
 珍しく校舎内で新名に会った。一年の下駄箱とは違う昇降口だからなかなか会うことねぇのに。だから率直にそう言った。
「こんなとこで会うなんて珍しいな」
「あー、うん……そだね。一緒に廊下でふざけてたダチがヒムロッチに捕まっちゃって、さっきまで教材運ぶの手伝わされてたから。それで普段こっち使わないけどたまたま……」
「そうなんか」
 俺が何気なく「珍しいな」って言ったことへの回答が、思ってたよりずっと詳しく返ってきてちょっと変な感じだ。
「嵐さんもう帰るの? あ、今日はバイトか」
 スニーカーに足突っこんで歩き出そうとすると、新名が横についてくる。こいつ友達待たなくていいんかな。
「バイト、はばたきプールだっけ。あ、だったら森林公園方面のバスだよね。じゃあさ、オレ途中まで一緒に帰ってもいい? 」
「別にいいぞ」
 本当はいつもはバイト先まで日課のランニング代わりに走って行くんだけど、なんか新名と一緒に帰るっていうのが嬉しくてバスで行くことに決めた。なんかちょっと新名の口数が多いような気がするのがちょっと気になったけど。
 
 
 そして校門を出てバス停までの帰り道。なんか会話が弾まねぇ。
 新名がしゃべらないからだ。
 
 ていうか、新名なんで急にしゃべらねぇんだ。さっきまで無駄に口数多かったくせに。そもそもこいつから一緒に帰ろうって誘ってきたんだろうが。
 いつもどれだけ新名が会話の糸口引っ張ってきてたんだって思い知るぐらい、新名がしゃべらないと俺から何話していいかまるで思いつかねぇ。正直気まずい。
 なんか最近、新名を見るとモヤモヤした気分になって、それが邪魔して上手く話せない。たぶんバレンタインのとき、新名とチューしてぇななんて疚しいこと思ったからだ。いや、でもあの後もコンビニではもっと気楽に話せてた。それは用件があったからか?
 わかんねぇ。そんなことぐらいで意識して、メンタル弱すぎだろ俺。これが試合だったらどーすんだ。
 
「あのさ、嵐さん今週部活休みの日とか……ないですよね、やっぱり」
 ようやく新名が何か言いかけて、けど即行で自己完結させてしまった。なんだこれ、会話のデッドボールってやつか。
「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言え」
 ようやく会話の糸口が見つかったと思って俺も必死だ。ちょっと怒ってるみてぇに言ってしまって、よけい新名をびびらせちまったかも。新名が俺の顔色うかがうみてーに話し始める。
「あ、あのさ、ショッピングモールに新しく食べ放題の店ができてさ……その、割引券もらったんで……」
「あの地下のずっと工事してたとこか? オープンしたんか」
「う、うん……それで、あの、嵐さん……行かねーかなと思って」
「混んでんじゃねぇのか? 」
「まだ春休み前だから平日のランチタイムは空いてんだって。だから、来週から短縮授業だし……嵐さん部活なければ行けるかなって思ったんだけど」
「おまえは部活ねーんだからバイト休みの時に行けばいいじゃねーか。他にも友達いんだろ」
「い、いるけど……」
 
 たぶん新名は俺を誘ってくれてんだって、わかってんのにどうやって会話をそこへ誘導すればいいのかわからなくて突き放すような言い方になっちまった。
 しかもタイミング悪く、俺の乗るはずのバスがゆっくりと坂を下りてくる。新名もそれを横目で確認して……溜息だか深呼吸だか大きく一つ息を吐いて、俺の方へ向き直った。
 
「……うんゴメン、オレ変な言い方した。嵐さんと行きてーんだ。ていうか……オレと、食べ放題行きませんか? 」
「こ、混んでねぇんならいいぞ。テスト中も部活やってたから、ちょうど休みにしようかと思ってたとこだし」
 突然きっぱりと、改めて誘い直されてなんだか俺の方がしどろもどろになってしまった。カッコ悪ぃな。
「マジで!? 」
「いつがいいんだ。あ、俺火曜と木曜はバイトだから……」
「月曜」
「えっ」
「来週の月曜日。授業終わったら正門で待ち合わせ。どう? 」
 新名にバスに押し込まれながら振り返ると、あっさりと待ち合わせまで決められてしまった。
「別にいいけど……」
 さっきまで歯切れの悪いしゃべり方してた新名が急に台本でもあるみてぇにハキハキし始めてちょっとびびる。でも新名っていつもはこんな風にテキパキなんでも先回りしてくれるから、本来はこんなもんなんだよな。
 
 バスに乗って空いてる席に座って、窓の外で手ぇ振ってる新名に手を振り返してたら発車した。新名の姿が見えなくなったところまで来たら、無意識にフゥーって長い溜息が出た。
 あれ、俺もしかして緊張してたのか? ちょっと首や肩に力入ってた気がする。
人と話すのに緊張するなんて、身に覚えもないのに先生に呼び出されたときか、めったに会わない仲良くもしてない親戚に妙に馴れ馴れしくされたときぐらいだ。でも、そういう緊張とは違うってわかってる。
 俺、無意識に新名によく見られたいって、カッコつけようとしてんだ。
 
(まるで、恋でもしてるみてぇ)
 
 したことあるわけじゃないから感覚でしかねぇけど、頭の中でそうまとめてみたらなんだかすげぇ腑に落ちた。そっか、俺――新名に恋してんのか。
 でも普通、そういう相手は女だよな? だったら、これって本当に恋なのか? 新名はどっからどう見ても女には見えない。スカートはかせて化粧すれば……無理だな。逆に気持ち悪ぃ。
 仮にスカート脱がせたとしても……俺と同じもんがついてんだよな。そういう場合どうやるんだろう。男には子供作る穴なんてねぇのに。
 
 …………
 
『次は、はばたき体育館前。はばたき体育館前です』
 やっべ、ボーッとしてた!
 自分の降りる停留所名の車内アナウンスに我に返って焦ってたら、他にもそこで降りる人がいたらしく降車ボタンを押してくれた。
 慌ててカバンを抱え直して、ポケットの小銭を探る。
(――っつか……俺、何考えてんだ……)
 新名と何するとこ想像してた……? 
 
 誰に頭の中を覗かれてるわけでもねーのに、なんだか無性に恥ずかしくいたたまれなくなって、バスが停車するとほぼダッシュみてぇな勢いでお金払って降りた。
 こんなんで、新名と普通に飯食いに行けんのかな……




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