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 今度は一番近いドアから飛び込む。
「嵐さん!! 」
「……に……いな……」
 やっべぇ、という表情をしているがとりあえず無事そうだった。ただ、不二山はロッカーにしがみつくように背を向けて立ち、柔道着の下衣は足首まで、帯は床に落ちている。道着の下に下着をつけない不二山は、つまり下半身丸出しだ。右手には細長いヒモのついた何かを握っていた。
「え、ちょ……どうした? どっか具合悪ぃの!? 」
「いや……ていうか、やべぇ。ちぎれた」
「ちぎれた? 何が? 」
 不二山の肩を抱えて支えロッカーにもたれるように向き直し、上衣の裾を合わせて前を隠してやった。
「これ……さっき先輩に突っ込まれて……気持ち悪ぃから取ってから行こうとして引っ張ったら……ちぎれた」
「ええーっ!!? 」
 不二山が持っていた細いヒモは、コードだったのだ。その先は確かに千切れて中の銅線が見えている。そしてその反対側にはリモコンのスイッチが――一見してそれが何であるか悟った新名は真っ赤になった。
「あんた、一体何されてんだよ! これ…ちぎれ……ってコトは、まだ中にあんの!? 」
「あーうるせぇ。だから新名にバレたくなかったんだ」
 ふはっと熱っぽい吐息をひとつ吐いて、不二山はそれでも毒を吐く。
「そりゃ誰にもバレたくないでしょうよ! ていうかこんなの全然、妬みによる先輩からのシメ行為じゃねーじゃん! よくあるつって騙されるとこだったじゃんオレ! 」
「……だからうるせぇ……おまえの声……響くんだよ……」
 苦しそうに肩のあたりを握り締められてはっとした。
「そ、そっか悪ぃ……コードちぎれたから取り出せねーんだよな」
「ん……だから指で引っ張り出そうと思って……」
「うわー! ちょっとタンマ!! 」
 その場で柔道着をはだけて後ろへ手をやろうとした不二山を慌てて制する。
「ここではマズイ。誰か着替えに来たら何やってんのって話だし、先輩たち戻ってくるかもしんないし……」
「それもそうか……」
「とりあえず……人目につかないところへ移動しよ」
 足元にわだかまっている帯と下衣を拾って、不二山に肩を貸しながら新名は、人けもないのに人目を気にしつつ向かいのシャワー室へ移動した。
 
 ロッカールームと同時期に作られたらしいここのシャワー室は古い。ザラザラのコンクリート床は冷たく、学生は皆スリッパ履きで個室まで行き、個室内ではウレタンスポンジのお風呂マットを足元に敷いて利用しているほど、古くて広くて寒い。
 その代わり個室の数は多いし、他の新しい施設のものよりは個室内も比較的広かった。その扉も今時の部分的なものではなくアルミサッシの全扉だ。ここに入って内側から鍵をかければとりあえずプライバシーは守られる。
「じゃあオレちょっと離れたとこにいるから、何かあったら大声で呼んでよ」
 不二山を個室の一つに押し込めると、生々しい気配の聞こえない範囲まで離れて待った。
 
 5分も経った頃だろうか。いつもと変わらない声の調子で不二山に呼ばれた。
「新名」
「取れた? 大丈夫? 」
「いや、ちょっと……」
 個室の側まで行くと、鍵をかけておけと言ったのにあっさり内側から開いて不二山に手招きされた。
「なに」
「……やべぇ。指が届かないとこまでいっちまった」
「え、ちょっ……それは……」
 手伝えってことかな……いやまさかあの嵐さんがそんな……と逡巡していると、あっさり「手伝え」と告げられた。
「でもそんなこと男同士でするのは……」
「は? 女にしてもらう方が変だろ、何言ってんだおまえ」
「……ですよねー……」
 なんで手伝ってもらうのにこの人はこんなに上から目線なんだろう。なんで他人に尻の穴を晒すのにこんなに抵抗がないんだろう。
 不二山との付き合いも長い方なので理不尽な正論には慣れているつもりだったが、今回のことは過去最大の理不尽のような気がする。
「……とにかく、このままじゃ体に力が入んねーんだ……悪ぃけど頼む……」
 しぶしぶ個室に入った新名の肩にトンと額を預け、思っていたより余裕のなさそうな様子で告げた不二山にちょっとドキッとした。
「お……押忍」
 
「じゃあ嵐さん向こう向いて……」
 大丈夫? 動ける? などと優しく労わりながらも事務的に不二山の腰を支えて背中を向けさせる。
「うわ、何コレ……すっげヌルヌル」
「……っ、着替えてるとこに後ろから押さえつけられて、何か変な薬のチューブまるまる一本入れられたんだよっ、んじゃなきゃそんなの入るか…っ」
「うわー……先輩たち、犯る気満々だったんじゃん……」
「くそ……縛られて脅されるだけだったら甘んじて聞いてやろうと思ったのが甘かった……次からは遠慮なくやっつける。先輩だからって容赦しねぇ……」
 新名の言った「やる気」の漢字変換がどういうものだったのか理解しているのかはわからないが、両手で拳を作って壁につき、その上に顔を預けるように立つ不二山が悔しそうに不穏な決意を吐き捨てた。
 
「じゃ、じゃあ嵐さん……触るぜ? 」
「女じゃねーんだからいちいち断るなっ」
 女の子とでもこんなところは滅多に触らないと思う……と思ったが、不二山なりの照れ隠しなのだろうと黙っておいた。
「大丈夫? 苦しかったら言ってよ? 」
「大、じょーぶだっ、いちいちうるさい」
「なんだよ可愛くねーの」
 この人相手に遠慮なんかしても損するだけだと思い直し、爪の先ぐらいで様子を見ていた指をさくさくと奥へ進める。
「えっ、あれ……なんで!? 」
「だからいちいちうるせぇって……」
「え、いやだって……さっきコードちぎれたって……」
 第一関節ぐらいまで入った指に、不二山の内臓の肉を通して細かな振動が伝わってくる。明らかに人工的なものだ。
「本体出さねぇと止まんねーんだろ……コードのやつには強弱のスイッチしかついてなかったし……」
「ええーっ、そういうモンなの!? 」
「俺だって知らねーよっ、それが動いてっから上手く取れなくて……」
 確かにこれでは取れないと思う。ただでさえゼリーのような、ジェルのようなものでヌルヌルと滑る上に相手は振動しているのだ。人差し指の先が目標物に当たったけれど、とても『取れる』手応えはない。
「悪ぃ、嵐さん指増やすわ」
「……っ、任せる……」
 不二山の呼吸がハァハァと荒くなってきた。既に入っている人差し指に沿わせるようにそろりそろりと中指を押し入れる。先のヌルつきのおかげで抵抗はなかった。
「…ん、っ」
「大丈夫? 痛い? 」
「っ、いいから……はやく」
 掠れた声で急かされると、なんだかオネダリされているような、妙な気分になる。自分の鼻息も荒くなっているような気がして、新名は落ち着くためにフゥーと深呼吸した。


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