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「兄貴! これどうぞ! 」
「おいっ、今日のドリンク係は俺だろ!! 抜け駆けすんじゃねぇ! 」
「不二山先輩! お誕生日おめでとうございます! 」
「兄貴! 俺のも受け取ってください!! 」
「それよりまずは朝練お疲れ様でしただろうがっ! 兄貴、タオルです!! 」
「おー、どうもな浜田」
「……はうっ! 兄貴が俺の名前を…!! 」
「うおっ浜ちゃんズリィ! 兄貴! 俺も誕生日プレゼント持って来ました! 」
「兄貴っ! 俺も!! 」
「おまえら、よそはまだ練習してるとこもあんだから静かにしろよー」
「押忍ッ!! 」

 朝練が終わって、道場の扉を開いた瞬間大騒ぎになった。
 毎年更新される選手登録や試合のオーダー表、段位の申請など、部活をやっていると何かと生年月日を記入する機会が多い。そのせいで自然と同じ部活の仲間の誕生日は覚えているものだが、それでなくても後輩部員達(全員男)から羨望の目で見られまくっている不二山の誕生日ともなると、全部員どころか応援団やその他の不二山ファンの間にも知れ渡っている。
 夏の高校総体が終わって8月いっぱいで選手登録を抹消しているとはいえ、引継ぎと後進育成のために毎日部活に出続けている不二山には依然として応援に来るファンも多いのだ。

「……わたし、こんな光景女子バレー部でも見たことある……」
 当惑しているマネージャーの脇で、不二山はニコニコとプレゼントを一つずつ受け取っている。
「みんな、いつも応援してくれてどうもな! いつか必ずおまえらの期待に応える活躍して見せっからこれからも頼む! 」
「ウオオオオ兄貴イィィィ!!! 」
 朝からむさくるしい野郎集団の中に爽やかな感動の嵐を巻き起こして、不二山は両手いっぱいの差し入れを抱えて柔道着姿のまま教室へ向かって行った。

(嵐さん、アレ……受け取った手前、中に引き返しにくいから着替えないでカッコよく去ったのかな……そういうこと計算じゃなくできるってマジパネェ……)
 去年の誕生日の様子を見ていて、さらに柔道部として実績を残した今年はもっと酷いことになるだろうと、新名が不二山のために用意していたエコバッグを手渡す隙もない。
 とりあえず自分は素早く着替えて不二山の分の着替えと2人分の荷物を持つと、新名は慌てて3年の教室へと追いかけた。


「オーッス不二山ァ! おまえ今日誕生日だったな!! おめでとう!! 」
 担任であり顧問教師でもある大迫は、教室では触れなかったが放課後の練習に顔を出すや否やいつもの大きな声でそう言った。
「誕生日ってことはアレだな、やるか? 祝い稽古……」
「押忍! やりますっ! 」
「……って、え? やるのか? 」

 想定外の二つ返事での承諾に、提案した大迫の方がたじろぐ。
 祝い稽古とは誕生日などを迎えた者(祝われる対象者)が強制的に元立ち乱取りの台に据えられるという行事である。ただでさえ元立ち乱取りは、普段は全員が総当たりになる乱取り稽古と違い、少人数に対しその他全員がローテーションするので、全員が同じ条件で組む通常の乱取りよりも台になった者が段違いに疲れる練習なのだ。通常は複数人が台になるが、祝い稽古のときはその台役が1人だけだ。
 つまり大迫が戸惑ったのは、不二山が勢いよく「やります」と言った祝い稽古とは誕生日に課せられる『その年最初の試練』のようなもので、誰しもが出来れば辞退したいと思っているような非常に過酷な儀式だからだ。

「あいつらが全員で束になってかかってきても、まだまだ俺は負けねぇって見せ付けてやります」
「お、おう! そうか! いいぞ! それでこそ青春だぁ!! 」
「押忍!! 」

 はたして宣言どおり、不二山は向かってくる後輩たちの弱点や欠点を徹底的に攻めるクレバーな戦法で、ことごとく返り討ちにしていった。休みなく乱取りを続ける不二山とは違って、他の相手が不二山と組んでいる間は休憩できているはずの後輩たちが先にへばってしまったほどだ。
「うっ…オエ……なんで疲れないんだあの人……」
「ハァハァ……マジパネェ……」
「無敵すぎる……」
「絶対アレだ……教会の地下室で改造手術受けたんだ……部長はサイボーグなんだ……」
 ゼエゼエと肩で息をしてブツブツ文句を言いながらも、後輩たちの意見は最終的には「ああ…でもそんな部長もカッコイイ……」で締められるのだった。
 
 

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