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 それは世間一般に見れば普通の平日、でもオレにとっては年に一度の特別な日。
 高校一年――16歳の誕生日ってまだ何かやらかしても許されるような、そんな勢いがある。もちろんオレだって始めからやらかしてやろうなんて思ってたわけじゃないんだけど。
 友人にも恵まれてるおかげで朝から色んな奴に声かけられ、女の子からも色々プレゼントもらったりして『本日の主役』として一日過ごした。
 そして放課後、部室へ向かうために上履きを履き替えている時も、他のクラスの女の子から祝ってもらえたりしてオレの勢いは続いてる。今日このままいけんじゃないの、なんて調子に乗ったりもしそうになる。
 
 でもオレの大好きなあの人はすっげぇ鈍感だから、オレのそんな勢いにも気づかないで何事もなく一日過ぎちゃうんじゃないか。そんな残念な方のシミュレーションもばっちりなことに慣れてきた自分がちょっと嫌だった。
 
 
「そうだ、おまえ今日誕生日だったっけ」
 そんな何かを期待させるような嵐さんの言葉で始まった部活は、いつも以上にハードなもので(オレ的にはどう考えてもリンチとしか思えない、誕生日特別練習メニューのことを祝い稽古というらしい)。ハイ、嵐さん相手に一瞬でも優しさとか色っぽさを期待したオレが馬鹿でした。
 
 練習後、ゲロ吐かなかっただけでも誉めてほしいってぐらい疲れきってグニャグニャで、着替えるのさえ億劫になってた時のことだった。
「新名、今日は頑張ったな」
「えー……そうでしたっけ? 」
 
 柔道場はクラブハウス棟から遠いからとかなんとかで、道場の隅の四畳ぐらいの用具置き場に小さいベンチと蜂の巣ロッカーを置いて更衣室代わりに使ってる。
 ベンチに座ったまま制服のズボンを履きかけたけど、腰を上げるのも怠くて途中で固まってたせいで他の部員はみんな先に着替えて帰ってしまって、もうオレ一人しかいない。そこへ、大迫先生とのミーティングを終えたらしい嵐さんが遅れて戻ってきたところだ。
 なんか誉めてくれてるっぽいけど、オレ頑張ったっけ? 最後の方はほとんど自力で立ってらんなくて嵐さんに引きずり回されてた記憶しかない。
「帰り、誕生祝いに何かおごってやる」
「いやいやいや、何か食えるようなコンディションじゃねぇし」
「なんだあのぐらいで」
「あのぐらいって……」
 入部してまだ半年足らずで、未だにスタミナ不足を指摘されてるオレにそんなこと言っちゃいますか。
 でもバイト代は全部部活のためにつぎ込んじゃってるらしい嵐さんが、何かおごってくれるなんて滅多にないんだよなー。せっかくの誕生日、嵐さんに他意はなくてもこの「二人きり」「自分だけ」という特別感は逃したくない。
 嵐さんがテキパキと体拭いて着替えていってる横でいつまでもパンツ丸出しで座ってんのも何なので、怠い体に鞭打って立ち上がり服装を整えた。

「じゃあおまえの好きなカラオケでも行くか。俺、歌わねーでマッサージしてやる。筋肉は素人が触っておかしくしたらマズいから、リンパとかの軽いやつだけど」
「えっ、マジで? 」
 マネージャーから、嵐さんは実はマッサージ上手いって聞いたことがある(彼女に指導したのも嵐さんだとか)から、これはお祝いとしてかなり期待できる。何より今のオレは癒してほしい気持ちでいっぱいだ。
 そして、それよりもカラオケで二人っきりで体触られたりしたら、もしかしてちょっとイイ雰囲気になっちゃったりしねぇ? とか男同士では想像しないだろう願望をちょっと抱いてしまったりして。
 でもまあ相手は鉄壁の嵐さんだしな……という諦めと慣れがオレの中にはあったから、そんな願望も妄想のまま終わるものと覚悟して二人で駅前のカラオケボックスへ向かった。



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