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「うわー…なにコレ、チョー気持ちイイんですけど」
「筋肉に負荷がかかるとこの辺に乳酸が溜まるんだ。これその日のうちに解してリンパに溶かして流しておかねぇと浮腫みやすくなるし、疲れも取れにくくなる」
嵐さんの温かい手が、オレの間接の付け根とか筋肉と筋肉の隙間とかを血行を促すように末端側から心臓の方へ向かって撫でていく。痛いことされたらヤだなとか思ってたけど、コレ痛いどころかやっべぇ。マジで気持ちイイ。顔がグニャングニャンに緩んじゃう。
でも、膝上から股関節に向かって内腿を撫で上げられるのは正直ちょっと……ヤバい。今日疲れてるから余計に……
「嵐さん、ちょっとソコは待っ……」
「なんだ新名、ヨダレ出てるぞ」
嵐さんが困ったような顔をしてオレの口元を指差した。えっ、ヨダレってマジで? ちょっと顔緩みすぎてた!? 嵐さんのマッサージ、マジパネェ。
焦って右手の甲でグイッと口の端を擦ったら嵐さんが手を伸ばしてきて、「こっちだ」と反対側の端を親指で拭われた。
「失礼しまぁす! お飲み物……お持ち、しました……」
「…………」
そうだった、さっきドリンクのおかわりを頼んだんだった……っつか、だからってなんでこのタイミングなんだよ!
アルバイトの、オレらと同い年ぐらいの女の子があからさまに「どうしよう、邪魔しちゃった……」という顔をしたまま空いたグラスを下げると足早に出て行った。
ちょっ、違うから!!
「あー、もう! なんか! 絶対! 今のコに誤解されたし!! 」
「誤解って何がだ? 」
嵐さんは動じた様子もなく、淡々とオレのヨダレを拭った指をおしぼりで拭いてる。
「どう見ても今の体勢、チューしようとしてるって思われたじゃんもー!! 」
「そうか? でもしてなかったんだし別にいいだろ。もし本当にしてたとしても、そんなの言いふらす方が野暮ってもんだ」
「そうだけどー!! 」
なんでこんなに落ち着いてんのこの人。前からちょっと思ってたけど、酸いも甘いも噛み分けた百戦錬磨の爺さんみたいだ。オレ一人慌てててバカみたい。
もしかして嵐さんにとってはチューなんて、何てこともないんだろうか。でもそういうの慣れてる嵐さんっていうのも想像しがたい。っていうか慣れてたらヤダ。
「嵐さんはチューとかしたことある? 」
「はぁ? そういうのは好きな奴とするもんだ」
即答だった。そして正論。
うん、その通りだけど。
「答えになってなくねッスか? したことあんの? ないの? 」
「高校生なんだから、したことなくても不思議じゃねーだろ」
むしろ普通だ、普通。なんて、嵐さんは誰かを納得させるように念押ししてる。
あー、つまりしたことないワケね。素直に『ない』って言うの悔しいんだろうな、ほんと負けず嫌いだなこの人。
でも心のどこかで、ちょっと安心してるオレもいる。
「それは、好きなコがいないってこと? 」
「いないっていうか……つか、別にそれも普通だろ」
「ふーん……」
好きなコがいないって言うのも悔しいのか。どんだけだよ。
今日のオレは疲れきってるせいか、安心してるはずなのに攻撃的だ。嵐さんの子供じみた反応を受け流せない。
「じゃあさ、オレが嵐さんのこと好きだって言ったらチューできる? 」
「さっきから何言ってんだおまえ」
「オレは、できるよ。嵐さんとチュー」
そう、オレはできる。
今日こうやって二人きりにならなかったら言うつもりもなかったけど、オレは嵐さんが「好きな奴とするもんだ」って言った理由どおりに、嵐さんとチューできる。
そんなの嵐さんだって、薄々わかってたんじゃねぇの。オレ、隠してなかったし。
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