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【2年生、秋】
コンビニに行ったら絶対いるのに、学校ではびっくりするほど新名と会わない。少なくとも一学期の間は一度も出会わなかった。本当に同じ学校に通ってんのか? って不思議に思うぐらい。
二学期が始まって、部活もいよいよ新人戦に向けて気合入り始めて、運動量が増えるとそれだけ腹も減る。持ってきた弁当を昼までに二個とも食っちゃって、昼休みに食うもんがなくなったので、学食に並ぶことにした。
そしたら新名がいた。クラスの友達らしきグループと一緒に俺の後ろに並びながら話しかけてくる。
俺は学校の制服着てる新名見んの初めてでなんか変な感じしてんのに、新名は別に何でもないって風だ。そっか、こいつは先に学校で俺のこと見て知ってたんだっけ。なんか悔しい。
「あれっ、嵐さん珍しいね。弁当忘れちゃったの? 」
「いや、もう全部食っちまって足りねーから」
俺がいるの珍しいって言うぐらいだから、新名はこの時間いつも食堂に来てるんだろうか。まあ確かに俺が食堂来るのなんていつもなら昼休みに弁当食い終わってから食い足りなくてパン買いに来るぐらいの時間だから、今までは時間帯が合ってなかったのかも。
「マジでー!? まだ食うの? 運動部パネェ!! 」
「おまえはいつも食堂なんか……? 」
聞きかけて、新名の持ってるもんに視線が釘付けになった。
はばたきミックスジュース。いわゆる『御当地名物』ではばたき市周辺でしか売られてなくて、缶のは街中でたまに見かけるけど紙パックのは結構レアだ。でもなんでかそれがうちの購買の自販機に入ってんだよな。もちろん俺が食堂に来る時間帯にはいつも売り切れてる。
それを新名が持ってた。
「え、なに? ああ、これ……一口いります? 」
「うん。くれ」
別に咽喉が渇いてたってわけでもねぇし、特にミックスジュースが好きってわけでもねぇんだけど。その時は、噛み癖があんのか、ちょっと先端がつぶれたストローの刺さった新名の飲みかけのそれが、すごくいいものみたいに見えた。
「オレは母ちゃんの仕事の都合で月曜と金曜はいつも食堂……って嵐さん!? ちょっ、どんだけ飲んでんの!? オレ『一口』って言ったよね!? 」
「ああ、一口しか飲んでねーぞ? 」
言い忘れてたけど、俺の『一口』けっこうデカいんだよな。俺の手からパックジュース引ったくって、新名が「ああぁー…もうほとんど残ってねぇじゃん……! 」ってボヤいてる。後ろで新名の友達がゲラゲラ笑ってる。つられて新名も眉毛下げたまま笑った。
「悪ぃ。今度おごる」
「もー…約束だからな」
本当に「もー」とは思ってなさそうな顔で笑いながら、新名は残りのジュースをズズズッと飲み干した。
(あ、飲んだ)
なんとなく、じっと見てしまう。
だって、これって間接キスだよな。
新名は何でもないような調子で俺に一口くれたからそういうの気にしないタイプなんだろうけど、俺は基本的に人が口つけたもんに口つけんの嫌だ。
部活の奴らと買い食いしながら帰るときも、回し飲みとか回し食いとか絶対やらない。ケッペキ症だとかそんなんじゃなくて、部活の奴らには「一人っ子っぽい」って笑われるし、自分でもたぶんスゲー食い意地が張ってて独り占めが好きなだけだと思う。
けど、明らかに新名の飲みかけだってわかるそのジュースは嫌じゃなくて、むしろ口つけたくて、自分でもびっくりしてた。
で、俺が飲んだ後のストローに新名がまた口つけたの見て、秘かにほくそ笑む。新名も俺と間接キスだ。
そんなの気にして女子みてぇ、って思うけど、新名はそんなこと全然気がついてなくて俺だけがわかってるっていうのがなんか面白かった。ちょっと優越感っていうんかな。
「なっ…なにガン見してんの。もう飲んじゃったよ」
ちょっとニヤニヤしてしまってたかもしれない。俺に見られてるの気づいて、新名が焦ったような顔して紙パックを潰した。
そんなことしてるうちに食券の自販機に並ぶ列はどんどん進んでて、俺は家じゃあんまり食えない洋食中心のA定食+ごはん大盛りの食券買って、新名のグループと別れた。
そんで、さっきは聞き流してたけど新名、月曜と金曜は食堂なんだな。覚えとこう、って思った。
今度会ったらはばたきミックスジュースおごってやらなきゃ。
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