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「ごめんね、お母さん発注枚数間違えちゃって年賀ハガキ20枚足りないのよ。悪いんだけどお金渡すから買ってきてくれる? 」
 二学期の期末テストが終わって、年賀状の受付開始までにそろそろ書き始めるか――と思ってたところにお袋がそう言った。
 うちの親父は毎年相当な数の年賀状を手書きしてる。当然早くから書き始めねーと間に合わない。お袋が親父と連名じゃなく自分の名前で出す年賀状は20枚もないから、親父に必要枚数を束で渡すために俺の取り分が減ったんだろう。不二山家では何でも親父が優先でお袋はいつもそのために奔走してるから、こういうことはよくある。
「別にいいよ、俺は今日からちょっとずつ始めるから」
 俺は快くお袋から年賀ハガキ代を千円受け取って財布にしまった。

 親父の真似ってわけでもねーけど、俺も年賀状は手書き派だ(昔は版画とか挑戦してみたこともあるんだけど、どうも力加減が上手くなくてちゃんとした版が作れたためしがなかった)。高校に入ってからお世話になる先生も友達も増えて、年賀状の枚数は年々増えてる。そのうち親父に追いつくんじゃねーかな。
 勉強とかはコツコツ毎日やる気にならねーけど、世話になった人に何か書くっていうのは楽しい作業で、毎日何枚かずつ、寝る前のちょっとした時間なんかに年賀状を仕上げていった。

 そうやってちょっとずつ年賀状書いてて、年賀状の配達受付も始まった頃に残りが少なくなってきて、お袋に20枚自分で買ってくれって言われてたこと思い出した。そうだ、先にお金ももらってたんだった。
 学校のそばに郵便局あるし、明日買いに行こう。そう思って、ふと(そういや、年賀ハガキってコンビニでも買えるよな? )って気がついた。学校帰りに郵便局寄んのも、ランニングついでにコンビニで買うのも同じハガキだし、金額が違うわけでもねーしな。よし、コンビ二行こう。


 新名いるかな? いや、今日はいる日だって知ってんだけど。
 せっかくだからしゃべりてぇし店、暇だといいな。

 最近すっかりコンビニに行く目的が、新名目当てになってる気がする。でも学校ではほとんど会わないんだからしょうがない。
「あ、嵐さんチーッス」
 暇な時間帯なのか新名は特に何をするでもなく、他の店員と一緒にレジの中にいた。
「押忍。なあ、新名……」
「なになに? 」
 ちょいちょいと手招きすると、新名はすぐに出てきてくれる。

「年賀ハガキ、パソコン用じゃない普通のやつってどれだ? 」
 本当は知ってる。知ってるけど新名と話したくてわざと呼び寄せた。別に忙しい時じゃねぇし、このぐらいいいだろ。
「えーっとね、この段の『インクジェット用』って書いてない方。無地がいいの? 絵柄入ってるやつもあるけど……なに、嵐さん今から年賀状? 」
「無地の頼む。郵便局に頼んでたやつ、お袋が枚数間違えてて足りんくて」
「何枚いる? 」
「20枚」
 無地の年賀ハガキは五枚入りのしかなくて、新名が四パック数えて取ってくれた。
「でも偉いねー、年賀状書くんだ」
「ああ。全部手書きで、12月に入ってからちょっとずつ書き溜めてるぞ」
「……マジですか。全部手書きってパネェ……オレなんかパソコンで印刷だし、出しても中学までの友達ぐらいだよ。高校の連れには一斉メールで済ますつもりだし」
「メールなぁ。あれか、デコメってやつ? スゲーの送ってくれるダチとかいるけど、俺はやり方わかんねーし。やっぱハガキがいい」
「あー、ぽいね嵐さん。オレはハガキで出すのって先生宛てとかのイメージかなぁ……でも嵐さんの話聞いてっと、なんかそういうのもいいなぁって気がしてくんね」
 ハガキと……はい、いつものやつもでしょ。って、新名がついでにはばたきウォーターも取ってくれて、一緒にレジに向かう。こいつのこういう気の回し方が居心地いいんだよなぁ。

「レシートどうする? 親に領収書渡すなら別々に打つけど」
「ん、一緒でいい」
「りょーかい」
 レジ打ってもらってお金を払う。いつもレジ袋断るけど、今日ばかりはさすがに袋ごと受け取った。
「あ、そうだ嵐さん」
「なんだ? 」
「オレ、嵐さん見習ってハガキで年賀状書くからさ……住所教えてよ」
「いいぞ」
 俺も実はそれ思ってたから、新名から聞いてくれて手間が省けた。
 新名が胸ポケットからボールペンと、レジ裏の棚からメモ用紙を取って渡してくれて、後ろに他の客が並んでねぇの確認して俺はレジのカウンターで住所を書く。でもその前に。
「おまえも教えろよ、住所」
 そう言って、新名にさっき受け取ったばかりのレシートを裏返して渡すのも忘れなかった。



 元旦には新名から、派手なデザインをパソコンで印刷したハガキに、斜めに細長い文字で手書きのメッセージが添えられた年賀状が届いた。
(女子みてぇな字だな)
 でもなんかアイツらしいかも。
 俺が手書きするつったから、あいつも手書きで書いてきたんかな。
 そう思うとまた面白くなって、親父が分けてくれた俺宛の年賀状の山の一番上に、そのハガキを重ねた。



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